平田椅子製作所は佐賀市の諸富地区にある椅子やソファなど、足もの家具製造に強みを持つ家具メーカーです。職人の丁寧な手作業で生み出される座り心地抜群の椅子は、ピースウィンズ・ジャパンのふるさと納税返礼品でも人気を集めています。次世代の日本の家具文化を育てるべく奮闘する平田椅子製作所社長、平田尚士さんにお話を伺いました。
「木工とは関係のない家庭に生まれ育ちました」と語る平田尚士さん。父親は大牟田市の職員だったそうです。学生時代は弓道、自転車競技、写真、バンド活動など多様な物事に興味を持って打ち込んできたと言います。平田さんが家具づくりと巡り合ったのは高校卒業後、福岡でパソコン販売の仕事をしていた時に出会った奥様がきっかけだったそうです。「妻は平田椅子の先代社長の長女でした。妻と付き合っている頃から先代に『うちに来い』と言われていました」。会社の休日を利用して平田椅子の作業場でアルバイトに勤しんだ平田さん。もともとモノづくりが好きで子供の頃から図画工作が得意だった平田さんは、家具づくりにのめり込んでいきます。23歳で奥様と結婚し、それを機に本格的に家具業界に入ることになりました。
「タンスなどの箱物と違い、椅子は部品や接合部に直角や水平がほとんどありません。なので、加工が難しいのです。また、日常的に人が座る道具なので強度が必要です。デザイン性と機能性を兼ね備えた椅子づくりは大変難しいです。ですが、その難しさが逆に面白みでもあるのです」。できないんじゃないかという壁を突破したときが最もうれしい瞬間だと平田さんは語ります。「試行錯誤を繰り返し、良いものができあがった瞬間は格別の喜びがあります。それをマーケットに出して消費者からダイレクトに反応が得られるのがこの仕事の醍醐味です」。と少年のような無邪気な笑顔で平田さんは語ってくれました。「ピースウィンズ・ジャパンのEDITIONプロジェクトでご一緒した、澄川伸一さんとの仕事はしびれました」。澄川さんが提案する今までにない流線的なデザインの椅子は平田さんの創作意欲を大いに刺激したそうです。「どうやってつくり上げるかを必死に考えました。加工が難しいのでスタッフは泣いていましたよ(笑)」。できあがったLILLYはお客さんからも高評価だとのことです。「LILLYを見たお客さんからは、平田椅子の技術を高く評価していただいています。新たな平田椅子の作品をつくり上げたという思いがあります。チャレンジしてよかったと感じています」。
「私が社長に就任したのが39歳の頃でした。当時は、従業員と経営者の溝を埋めていくのが難しかったです」。社長と社員という立場の違いができると、社員がなかなか本心を打ち明けてくれないという課題にぶつかったそうです。「若い子たちがのびのびと仕事ができる環境にしたいと考え、いろいろなことを試しました。その一つが社員を出張に行かせることです」。外に出て現場を見ることで様々な発見を社員がしてくるそうです。それを繰り返すうちに社員から様々な提案が出てくるようになったといいます。「私が外を見に行って、それを社員に言ってもなかなか理解してもらえません。私が言うよりも社員を現場に出張させて見てもらう方が早いのです」。多様な現場を見せることによって、社長と社員のコミュニケーションが改善していったそうです。「社員は仲間という感覚です。一つの事業をみんなで一緒にやる仲間だと思っています。私が旗振り役になるので、ついてきてね。意見があったら言ってねというスタンスでいます」。社員の高齢化が進んでいた平田椅子製作所は、様々な試行錯誤を重ねていくことで若手が一人、また一人と入社し若返りを図ることができたのです。
「『かたらいのしたに、いつも。』というコンセプトは社長になった年、今から13年前につくりました」。コピーライターと話をしている中で、家族のコミュニケーションが一番大事だという考えに至った平田尚士さん。「生活を振り返った時に家族でご飯と食べている時間が一番楽しいと思ったのです。家族の団らんをテーマに考えた時に団らんを支えているのは椅子だときづきました。家族の語らいの下を支える椅子をつくり続けたいという思いで生まれたコンセプトです」。平田社長は曽祖父、祖父、祖母、叔母、父、母と3人兄弟の9人家族で育ちました。昔はみんなが揃わないと食事をしないというルールが家族内にあったそうです。でも、時代とともにそれが崩れ、高校生の時にはみんなで食事をする時間がなくなってしまったと言います。「結婚して家庭ができて、改めて家族の食事の時間が大切だと思うようになりました」。移りゆく時代、変わりゆく価値観の中でも「家族の食事の時間を大切にしたい」という思いが平田椅子のモノづくりには込められているのです。
「将来の夢は日本の家具文化をもっと成熟させることです。特にヨーロッパと比較すると家具をインテリアとして楽しむ文化は浅いと感じています。日本では家具=道具という意識が根強いのです」。ヨーロッパと同じくらい成熟した家具文化を築くために様々な仕掛けがしたいと平田さんは考えています。「ストックホルムで開催されたデザインウィークの時に日本とヨーロッパの家具に対する意識の違いを肌で感じました」。アパートの3階の一室が展示会会場だったそうですが、インテリアコーディネーターやスタイリストがInstagramに投稿することで、どんどん口コミで情報が広がっていったそうです。「ヨーロッパでは古い家をリノベーションして住む文化が根づいています。リノベーションの際に、一般の人たちもインテリアコーディネーターやスタイリストに仕事を依頼するのです。だからその人たちの情報拡散力も高いのです」。集客はInstagramでの情報拡散だけだったにもかかわらずレセプションには50名以上が集まったそうです。「来場者が写真を撮り、SNSにアップすることでさらに情報が拡散されていきました。家具に対する意識の高さに驚きました」。結果として、その後も連日ひっきりなしに来場者があり、商談にまでつながったそうです。「道具としての家具にデザインというスパイスをかけることで多くの人が家具をインテリアとして楽しめるようにしていきたいです。そのためにも、今後はつくり手が様々な情報を得た上で、自ら発信していかないといけないと考えています」。日本の家具文化をさらに進化させるべく、平田椅子製作所の挑戦はまだまだ続いていきます。
公開日:2022年4月25日
更新日:2023年5月30日
諸富家具/平田椅子製作所/平田尚二の返礼品紹介
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