畑萬陶苑は約370年続く伊万里鍋島焼の歴史や技術をバックグラウンドに持ち、昭和元(1926)年に創業した窯元です。畑石真嗣さんは畑萬陶苑の4代目社長として伊万里焼の可能性を広げる活動を展開し、『ひな人形』や『卑弥呼』など、これまでになかった作品を数多く生み出してきました。また、BEAMSやNIKEといった有名企業とも積極的にコラボレーションを展開し、時代に則した新たな「美的感覚」を追求しています。洗練された美意識と高度な技術を土台に生み出される創意工夫あふれる作品はピースウィンズ・ジャパンのふるさと納税返礼品としても評判です。伝統を継承しながらも、新たな道を切り開くパイオニア精神あふれる畑石真嗣さんにお話を伺いました。
「高校生の頃は、陸上のやり投げを一生懸命やっていました。教えられる先生もいなかったので、自分で練習方法を考え試行錯誤しながら毎日練習に励んでいました。昔から『人がやらないこと』に挑戦するのが好きでしたね」。努力の結果、18歳の頃には佐賀県大会で大会新記録を出し、全国大会にも出場したそうです。若かりし頃からチャレンジ精神旺盛だった畑石真嗣さん。「高校卒業後、就職したのは北九州にある安川電機でした。エンジニアとしてランプシェードなどの電気関係の製品を手掛けました」。当時は、徹夜徹夜の連続で精神的にも肉体的にもかなり鍛えられたそうです。「焼き物以外の仕事をした経験は今でも役に立っています。エンジニアとしての論理的な思考回路は試行錯誤しながら新商品をつくる過程で活かされています。休みなしで働いても苦痛に感じないタフな肉体と精神力も養われました。仕事が好きなんです」と自らの歴史を振り返りながら畑石さんは語ります。
「気分転換に畑萬陶苑の店舗内外にある植木や鉢植えの剪定を行います。この時も必ず10年先を考えて取り組みます」。花や樹木の育っていく様子を想像しながら行う剪定がリフレッシュタイムとなり、創作意欲にもつながっているようです。「店舗の窓から見える景色も絵画だと考えています。店舗に訪れたお客さんにどう印象づけるかが大切です」。細部まで美意識が行き届いた畑萬陶苑のショールームは、洗練された美しさとずっとその空間に居たくなるような安心感に包まれています。「店舗のテーブルセッティングやフラワーアレンジメントも自分で行っています」。勉強熱心な畑石さんは、フラワーアレンジメントも独学で身につけたそうです。「花のアレンジを考えるのは楽しいものです。それが器のデザインにつながることもあります」。常に高い美意識を持ち、それを作品につなげるアンテナの高さを持つ畑石さん。「昔は焼き物のことばかり勉強していましたが、現在は様々なジャンルの勉強を積極的にしています。例えば、漆器や着物などの色合いやデザインを勉強し、作品に取り入れることもあります。様々なジャンルの作品や知識に触れることで新たな発想が湧いてくるのです」。円熟の域に達しながらも、若々しい好奇心と向上心を持ち続ける畑石真嗣さんの表情は喜々としています。
企業とのコラボレーションは多くの場合イメージ画が最初に提案されるそうです。「イメージ画を見て、製作段階で生じる不都合を予測し、軌道修正してペーパーデザインを起こします。往々にして、企業に言われるがままにするとまず完成しないものです」。「ろくろ成形で試作品をつくり、作品の雰囲気をつかみます。それから石膏型を作成し、その後はつくりながら納得がいくまで形を調整していきます」とモノづくりへの強いこだわりをにじませる畑石真嗣さん。「製作の最終段階でつくり手側が『こうしたほうがもっと良い』と判断しなければ良いものができず、市場で評価されません」。徹底して細部にまでこだわる畑石さんの職人魂が数多くの企業とのコラボレーションを成功に導いてきたのです。「ピースクラフツSAGA『EDITION』では東京オリンピックの卓球台をデザインした澄川伸一さんとコラボができました。優しそうな雰囲気の方でしたが、うちに秘めた強さや感性を感じました」。窯元とプロダクトデザイナー、立場は違えどもモノづくりに携わる人間同士、畑石さんと澄川さんには相通ずるものがあったようです。「澄川さんがデザインしたシンプルで洗練されたフォルムと畑萬陶苑が持つ独自の手法を上手く融合させることができ、良い作品に仕上がったと感じています」。新作の完成を振り返り、畑石さんの表情もほころんでいました。
「畑萬陶苑の企業経営を考えた時に『産業・伝統・芸術』という三本柱が大切になってくると私は考えています」。「『産業』とは、大量生産・大量消費の中で使われる産業的商品づくりです。『伝統』とは、伝統的な技術やデザインを将来に継承していくための伝統工芸品づくりです。『芸術』とは、新たな付加価値を生み出すための芸術作品づくりです」。どれが欠けても事業は発展していかないと畑石さんは考えています。「特に芸術作品は『将来価値が上がるかどうか』が重要になってきます。新たな作品をつくり、各方面で評価を得られるように行動していく。するとお客さんも『今買っておかないと』となります。将来家宝として大切にされるものを生み出していきたいです」。作品づくりと評価の獲得、この両輪が大切だと畑石真嗣さんは語ります。「多くの人たちは『競争』にフォーカスしてしまいます。そうではなく、今までになかったオリジナル商品をどのようにしてつくり、どのようにして印象づけるかという思考回路が大切だと考えています」。畑萬陶苑が「今までになかったもの」を生み出し続ける源泉が畑石さんの考え方に現れています。「私は焼き物以外の仕事を3年経験し、有田焼の生産を5年経験した後に伊万里にやってきました。だからこそ、伊万里焼の固定観念に囚われることなくオリジナルを追求することができたのだと思います」。これまでの人生を振り返り、固定観念に囚われないことの重要性を再確認する畑石さん。「息子の世代の感性がこれからの時代は重要になってくると考えています。まずは、やりたいことをやって欲しいです。その過程で窯に入れたものが全滅することもあるでしょう。だったらそれをどうクリアしていくか考え、試していくことで独自のノウハウが出来上がっていくのです。失敗が力になっていきます」と力を込めて語る畑石さんの目は、真っ直ぐに未来を見つめているようです。
「伊万里に桜の名所をつくろうと思い、周囲に投げかけ賛同者を募り、桜の木を200本植樹したことがあります。たくさんの方から愛されるように地域をデザインしていきたいと考えています」。畑萬陶苑のことだけでなく、産地や地域全体としてどんなまちづくりをすべきかを畑石さんは考えています。「これからの陶磁器産業は新たなファンをつくっていかなければいけません。だからこそ、毎年新作展をやり、大川内に来ないと見られないという仕掛けをしていくことが大切です」。「今後は、まちぐるみで農産物と伊万里焼を連携させた陶器市を開催していきます。地域の中で連携を深めていくことが大切だと考えています」。地域の中での異分野・他業種との連携が重要になると畑石さんは語ります。「新しい取り組みを仕掛けるときには、人が『できないよ』というような実現が難しいことを投げかけます。そして、そこに自分たちも協力していくというのが大切です。アイデアをどうやって面白いと思わせるかが鍵です。だから、普段からあちこちでアイデアを口にするようにしています」と畑石さんの考える地域を動かす仕掛け方の極意を教えてくれました。「秋祭りも当初は反対する人がいました。ですが、今では定着し30年間も続いています。30年間の歴史をつくってきたとも言えるのです」。新たなアクションを起こし、地域の歴史をつくってきた過程を畑石さんは楽しそうに語ってくれました。「組合では自分たちでお金を出し合い、総理大臣や中国・韓国といった外国にも伊万里焼を献上してきました。そういった活動が伊万里焼の付加価値を高めてきたのです。自分たちの持ち出しでやってきたからこそ産地としての自信がつくのです」と語る畑石さんからは、地域で力を合わせ、自分たちの手で歴史を築き上げてきたという誇りが感じられます。「伊万里焼を守り育て、地域を守り育てる。その覚悟を持って連携して活動していくことで、産地をさらに発展させることができると考えています」。伊万里焼の未来、大川内の未来を語る畑石さんの表情は自信と誇りに満ちあふれていました。
公開日:2022年1月28日
更新日:2022年1月28日
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