「ピースクラフツSAGA」は認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが実施する佐賀の伝統工芸を支援するプロジェクトです。
つくり手

日本初の皇室御用窯、350年の歴史を誇る辻常陸窯の15代辻常陸と次期当主辻浩喜さん

辻常陸窯は、寛文8(1668)年三代喜右エ門の時代に霊元天皇に称賛を受け、日本初の禁裏(皇室)御用窯となった歴史のある窯元です。以来、350年以上にも渡り皇室に器を納め続けてきました。現在も宮内庁主催の晩餐会で使用される食器をはじめ、様々な器を納めています。辻常陸窯の洗練された器はピースウィンズ・ジャパンのふるさと納税返礼品でも好評です。「特別な仕事」を代々続けてきた辻常陸窯の十五代と次期当主の辻浩喜さん親子にお話を伺いました。

辻常陸窯を継ごうと意識し始めたきっかけ

有田焼辻常陸窯外観1
有田焼辻常陸窯外観_3

浩喜
「私には小学生の息子がいるのですが、その子はまだ、実家が宮内庁に器を納め続けている窯元だとは分かっていないようです。私も、子供の頃はそれがどれだけ大切なことなのかを理解していませんでした。本格的に仕事をしだしてから、初めて理解できたというのが正直なところです」。

十五代
「私も子供の頃ははっきりと理解できていなかったと思います。高校を卒業した時に、窯の職人も少なくなっていて、自分が手伝わないといけないと思い、自然と窯の仕事を手伝うようになりました。手伝ううちに仕事にハマってしまいました」。

浩喜
「父からは『窯を継げ』と言われたことはないです。周囲の人達からは小学生の頃から『将来は窯を継ぐんだよね』『窯を継いでね』という感じで言われていたと思います。環境が自然と意識をつくっていったのだと感じています」。

十五代辻常陸が認める浩喜さんが持つ視野の広さ

有田焼辻常陸窯_1
有田焼辻常陸窯_2

十五代
「大学卒業後、息子が別の仕事をした経験は非常に良かったと感じています。私達が全く知らないことを知っていて、物事を見る目が異なり、学ぶべき点も多いです」。

浩喜
「東京の美術大学を卒業した後、鉄を素材にシャンデリア、門扉、看板、什器などを製作する会社で仕事をしていました。学生の頃からアルバイトでお世話になり、卒業後、その会社に就職しました。社長も芸術系の大学出身で、学生にも理解のある方でした」。

十五代
「私自身も様々な考えを受け入れ、視野を広げようと努力はしていますが、考えるだけで実行に移せないところもあります。息子は別の仕事を経て、視野が広がったのだと感じています。良い経験になっていますね」。

宮内庁の仕事から生まれた辻常陸窯のオリジナル技法「極真焼」

有田焼辻常陸窯_皇室お皿
有田焼辻常陸窯_極真焼

十五代
「辻常陸窯は、宮内庁の器を350年以上つくり続けています。宮内庁の仕事は長年にわたって同じ作品を収めることも多く、均一のものを作らなければならないので、そこが大変なところです。検品が終わるとホッとします」。

浩喜
「基本的には、宮内庁から見本をいただいて、それと同じものをつくるという仕事です。均一に同じものをつくるのが宮内庁の仕事では重要です。製作中に菊の御紋を見ると身が引き締まる思いがします。特別な緊張感がありますね」。

十五代
「昔は、登り窯を燃料灰で焚いていたそうです。現代の環境と比べて灰が被りやすく、火力も不安定です。その環境の中で美しいものを焼き上げ、皇室に献上したいという思いの中で先祖が開発したのが「極真焼」という技法です」。

浩喜
「極真焼は製品と同じ磁土でつくったさや(入れ物)に作品を入れ、焼成する技法です。ふたとさやの接触部分と内側全面に釉薬を施して焼成するので、中が真空になります。ガスの浸透や拡散を完全に遮断することで気品あふれる光沢と深い呉須の発色が得られます」。

辻常陸窯の父子が語るより良く、より楽しく変わっていく有田焼

有田焼辻常陸窯_3
有田焼辻常陸窯_REI EDITION2021 麗 REI 染付・染錦花唐草文酒器

十五代
「有田焼創業400年事業をきっかけに有田焼は大きく変化したと感じています。都会から焼物以外のデザイナーが参画したことによって、器の形も絵付けも大きく変わりました。伝統と最先端の技術や感覚が融合し、より良い方に、より楽しい方に変わったと感じています。その影響を有田の若い人たちがしっかりと吸収し、日々新たな作品が生まれ続けています。伝統の継承と新たな感性や時代のニーズを捉えた変化が両立していると感じています」。

浩喜
「ピースクラフツSAGAの商品開発プロジェクト『EDITION2021』でプロダクトデザイナーの澄川伸一さんとコラボレーションできたのは良い経験になりました。最新技術で生み出された美しいフォルムと伝統的な絵柄が融合し、新しくも見え古くも見える、今のライフスタイルにも適したものが生み出せたと思います」。

十五代
「『EDITION』では、3Dプリンターでのモデル成形に驚きしました。今までの焼物づくりの過程では、原型をつくるのが大変だったのですが、あっというまに樹脂で見本がつくられていましたね。有田も400年事業をきっかけに最新技術や先進的なデザインの導入が進みました。そこで起こった変化を上手に活かして、今後の有田も未来に向かって変わっていって欲しいと願っています」。

浩喜
「小学生の息子を見ていて勉強になるのが『遊び心』です。息子はiPadもすぐに使いこなし、私が知らない使い方もマスターしています。ゲームがきっかけですが触ると使い方をどんどん覚えるものなのだなと実感しています。自分には夢中になる感覚や遊び心、新しいものを吸収する意欲が足りなくなってきていると反省しています。もっと、遊び心を大切にして、新しいものを吸収できるようにしていきたいです」。

350年以上に渡り、継承されてきた辻常陸窯の伝統と技術。そして、新たな技術や時代のニーズを受け入れる柔軟さを持つ辻親子。大きく変わりゆく時代の中で「変えるべきもの」「守るべきもの」を見極めながら有田に起こる「より良く、より楽しく変化」を味わっているようです。

公開日:2021年12月24日
 
更新日:2021年12月24日

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