平成7年5月31日に重要無形文化財(人間国宝)に指定された有田焼作家の井上萬二さん。若かりし頃、海軍飛行予科練修生(予科練)として鍛えられた心身をベースに御年90歳を超える今も毎日8時間、仕事を続けています。井上萬二さんが持つ高い精神性と究極の技術が生み出す白磁の器は、見るものに畏敬の念を抱かせるほどの洗練された美しさと説得力を持ちます。ピースウィンズ・ジャパンのふるさと納税返礼品としても人気です。高みに上り詰めた現在も、日々「努力」を続ける井上萬二さんにお話を伺いました。
「健康の秘訣はまず、親が健康に生んでくれたことです。あとは節制を心掛け、規則正しい生活をしています」。毎月2回の血液検査でお医者さんからアドバイスをもらい、生活を自らコントロールすることで健康を保っているそうです。「夜は肉をよく食べます。少なくとも週に3日は牛のヒレ肉を口にします。いろんな肉を食べましたが、やはり、佐賀牛が一番おいしいです」とうれしそうに語る萬二さん。知人のホテル経営者と毎月1度はステーキを食べに行くそうで、なんと、150gも召し上がるとのことです。大好きなヒレ肉と規則正しい生活が達人の健康と創作へのエネルギーを支えています。
「グランドキャニオンは7回以上見に行っています。眺めると心が大きくなり元気になれます。アメリカはワイルドな自然があふれていて大好きな場所です。大草原や砂漠を車で時速100kmくらいのスピードで走るのは爽快でした」。「残念ながら、去年運転免許を返納してしまったので、もう、運転はできませんが」と少し寂しそうな表情で語る井上萬二さん。「若い人に負けない感覚もあるし、まだまだボケてもいません。運転していたころは、往路と復路では必ずちがう道を通っていました。同じ道を通りたくないのです。常に好奇心を刺激し、いろんな風景を見ることで作品のアイデアが湧いてきます」。負けん気の強さがにじみ出る萬二さんの表情は非常に若々しかったです。
「窯は父親の代に大きな負債を抱えてしまいました。何十人も従業員がいましたが、休業となり、退職金代わりに土地を渡すなどして整理してしまいました。ちょうど終戦のころに窯の再興を考えた父親に『跡を継いでくれ』と言われたのですが、『どうせやるなら自分の窯にする』と言って7年間の無給修行生活に突入しました」。陶芸家としてのスタートを思い出す萬二さん。「いつになったら給料がもらえるんだろう。もうやめようと思ったときに奥川忠右衛門さんという名工と出会ったのです。神業的な技術を持ち、普通の職人の3倍もの給料をもらうすごい人でした。粘りに粘って弟子にしてもらいました」。人生を変えるような師匠との出会いを懐かしそうに語る井上萬二さん。「それから7~8年すると有田でも名が通るほどの技術を身に付けていました。奥川忠右衛門さんと出会い、開眼したのです」。合計13年ほどの修行生活の後、窯業試験場で13年間公務員を務めます。そして、作陶をスタートして26年の月日がたち、ようやく自分の窯を持ちます。「人生を振り返って思うのは、人間は運が大事だということです。運は誰にでも巡ってきます。出会いを大切にし、努力をすることで自然と運がつかめるのだと感じています。だから、孫にも人より倍努力しろと常日頃から言っています」。
「平成7年に人間国宝に指定していただいた時はすごくうれしかったです。今までの努力が評価されたんだと思いました。でも、それからもさぼることなく努力を続けてきました」と名誉に甘んじることなく精進し続ける萬二さん。「今でも旅をした中からひらめきが生まれ、仕事をすればするほどいくらでもアイデアが湧いてきます。『ちょっと遊んだ方が良いのではないか』と言われることがありますが、今から遊ぼうと思っても人生はもう短いです」と仕事一筋に生きてきた有田焼の達人は語ります。「いくらでも発想、ひらめきがありますが、それに体がついてこなくなってきています。若いころは技術を高める努力が何よりも大切でした。しかし、今は1分でも1秒でも長生きできるように健康保持の努力が大切です。暴飲暴食をせず、ウォーキングを欠かさず、お医者さんと仲良くして、自己管理を徹底する。人間死ぬまで努力が大切です」。努力によって道を切り拓いてきた萬二さんの言葉はとても説得力があります。
「孫の祐希は面白いアイデアで作陶に励んでいます。でも、伝統から外れて新しいことをやろうとするところがあり、そこが私としては気になります。先人たちの技術をしっかり受け継いだうえで、そこに現代のアイデアを融合させるようにして欲しいのです」。伝統工芸の未来、孫の未来を気にかけて萬二さんは語ります。「形を生み出すのが我々の技術。それを徹底的に身に付けてからアイデアを試して欲しいと思っています」。伝統工芸の未来を担う若者たちやお孫さんに向けた萬二さんの心からのメッセージです。「日本には幾多の伝統工芸があります。これから先、若い人たちがどれだけ関心を持ってくれるかで伝統工芸の未来は変わります」。「有田焼でも着物でも、漆でも、世間から『要らない』と思われたら世の中からなくなってしまいます」と伝統工芸の未来を案ずる萬二さん。「今の若い人たちが『日本の伝統工芸をなくしたくない』と思うような伝統工芸になっていかないといけないと思います。日本の伝統や文化を未来に伝えるために今、我々が努力し、啓蒙しないといけないと考えています」。戦中・戦後の厳しい時代を生き抜き、たゆまぬ努力を積み重ね、高みに達した達人の声には憂いとともに決意に満ちた力強さがこもっていました。
取材写真:藤本幸一郎、商品写真:ハレノヒ
公開日:2021年4月7日
更新日:2024年10月23日
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