「ピースクラフツSAGA」は認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが実施する佐賀の伝統工芸を支援するプロジェクトです。

私のお気に入り

「良い器は暮らしを豊かにする」と語る十四代今泉今右衛門さんが愛用する「鉢」と「グラス」

今右衛門窯の当主、十四代今泉今右衛門さんは陶芸分野史上最年少で人間国宝に認定された名工です。京都に足を運ぶたびにアンティークショップを巡るという今右衛門さん。コレクションの中でも一際思い入れが深い器についてお話を伺いました。

今右衛門さんでの食事で大活躍。幅広く使える中野月白地鉢

バカラグラス

「この鉢はうちの食事でいつも使っています」と今右衛門さんが見せてくれたのは小石原焼の人間国宝、福島善三さんが制作した「中野月白地鉢」でした。柔らかな乳濁色の色合いと均整の取れたフォルムが美しい作品です。「この鉢に盛ると料理がよく映えます。使うことで器も喜んでくれているという感じがしますね」と今右衛門さんは語ります。ご自身でも料理をされる今右衛門さんは「良い器を使うとなると料理も今まで以上に丁寧につくろうと思うものです。良い器を使うことで意識が変わり、生活も豊かになっていくと感じています」と器によって心持ちが変わることの大切さを語ってくれました。中野月白地鉢には、サラダをよく盛るそうで、他にも和食全般や素麺を盛るなど多用途に使い、重宝しているとのことです。「自分でつくった器はあまり使いません」。特にぐい呑みは基本的には使わないとのこと。「お酒を飲む時に自分の作品を使うと、ここをもうちょっとこうしたらよかったなどと考え、お酒の味がしなくなってしまうのです(笑)」。にこやかに語る今右衛門さんのお茶目な表情が印象的でした。

「出会い」と「変化」の大切さを学んだバカラとの思い出

十四代今泉今右衛門

「10年ほど使い続けているバカラのグラスも気に入っています。冷酒やワインを飲む時に使っています」。そう言いながら今右衛門さんが見せてくれたのは100年以上前につくられたバカラのショットグラスでした。「船や汽車といった安定感のない環境でもお酒が楽しめるようにと開発されたグラスだそうです」。買い求めた時は繊細なつくりのグラスを探してアンティークショップを訪ねていたという今右衛門さん。このグラスに出会った時は違和感を覚えたそうですが、試しに買ってみることにしました。「使ってみると安定感があり、堂々とした風格もあって非常に気に入りました」。違和感をきっかけに出会ったグラスが今では今右衛門さんの晩酌の相棒になっているようです。その後、今右衛門さんは奇遇にもバカラとのコラボレーションの仕事に取り組むことになりました。「バカラとのコラボは思い出深い仕事の一つです。最初はバカラという企業と今右衛門という作家のコラボレということで、なかなか話が進まず実現は不可能じゃないかと思うこともありました」。吹きガラスで制作されるバカラは変形物をつくる際に厚さが均一にならないなど技術的な課題があったそうです。「バカラのフランスの職人が『今までやったことはないが、ぜひ挑戦したい』と言われ、そこから話がどんどん進みました」。良いものをつくりたいという職人同士の思いが共鳴し、14代今泉今右衛門とバカラのコラボレーションは実現したのです。「作品が完成するまでに5年ほどの月日がかかりました。お互いの個性と異質性を擦り合わせる過程が非常に面白かったです」「こちらからも作品全体のバランスを考えて『ショットグラスを5mmくらい低くして欲しい』とオーダーしたこともあります。すると、作品発表の記者会見の時に『バカラが100年つくり続けた形を5mm低くした男』と紹介されました」。出会いの中で双方が変化し、新たなものを生み出す力になる過程がすごく大切だと今右衛門さんは考えています。さまざまな器との出会いも14代今泉今右衛門さんの表現力や人間性を高める材料となっているようです。

公開日:2022年5月10日
 
更新日:2022年5月10日

十四代今泉今右衛門_伝統工芸品と私

十四代今泉今右衛門(じゅうよんだい・いまいずみ・いまえもん)

陶芸家

1962年 佐賀県有田町に生まれる。1985年 武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科(金工専攻)卒業。福岡(株)NIC入社。1988年 陶芸家・鈴木治氏に師事。1990年より十三代今泉今右衛門の下、家業に従事。1996年 日本伝統工芸展初入選。 1998年 日本伝統工芸展 工芸会会長賞受賞、正会員に推挙される。2002年 十四代今泉今右衛門を襲名。2009年 紫綬褒章受賞。2014年有田陶芸協会会長に就任。重要無形文化財「色絵磁器」の保持者(人間国宝)に認定 2017年 フランスのクリスタルブランド、バカラ社との共同制作「Baccarat meets IMAEMON」を発表。2018年 佐賀県陶芸協会会長に就任。 2020年より日本工芸会副理事長を務める。