「ピースクラフツSAGA」は認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが実施する佐賀の伝統工芸を支援するプロジェクトです。
活動レポート
2018年5月31日

子供も大人も楽しめるシンプルモダンな木馬[飛鳥工房]

最初に飛鳥工房を視察した際、澄川さんは廣松さんから機械や設備の説明を受けた

(写真すべて:下川一哉)

大人も乗れる木馬を目指して

 

 ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)は、佐賀の伝統工芸支援事業「ピースクラフツSAGA」の活動の一環として、2018年2月より商品開発を新たに開始しました。今回は、諸富家具産地で木製玩具やインテリア雑貨を製造している、飛鳥工房の商品開発について経過を報告します。2月1日、商品デザインに携わることになったプロダクトデザイナーの澄川伸一さんが、飛鳥工房のショールームを初めて訪れました。まずは代表取締役の廣松利彦さんとの顔合わせと工房ならびにショールーム視察が目的です。飛鳥工房のショールームに並んだ商品群をひととおり確認した澄川さんは「どれもデザイン性が良く、フォルムが洗練されている。樹種の選び方や使い方も良い」と、廣松さんのつくり手としての実力を高く評価しました。そのうえで「廣松さんと一緒にものづくりをすれば、きっと良いものができる」と期待を寄せました。

 今から十数年前、廣松さんが自分の娘のために木馬をつくったことが飛鳥工房の始まりだったという話を聞き、澄川さんは木馬に着目しました。出発点となった木馬をより発展させ、それを飛鳥工房のブランド・アイデンティティーとするのが良いのではないかと考えたのです。元々の飛鳥工房の木馬は幼児を対象とした製品です。そこで澄川さんは、「幼児の時期はあっという間なので、子供がもう少し成長した後でも乗れ、また大人も乗れる木馬があると良いのでは」と提案しました。廣松さん自身もそれについては必要性を感じていたようで、その方向性ですぐに話がまとまりました。

 

 

横座りでゆらゆら揺れる新しい楽しさ

 

 澄川さんは東京に戻ると、スケッチを始め、さらにコンピューターグラフィックスでイメージ図を描きました。それは馬の首と顔を省いて座面だけを残した、通常の木馬の姿とはかけ離れたものでした。言わば、揺れるスツールです。子供が成長した後でもずっと長く家に置いておくには、インテリアに調和するデザインが良いという判断から、澄川さんはあえてシンプルでモダンな形に徹しました。さらに特徴が2つ。1つは座面を既存製品より1.5倍ほど長くし、親子や兄弟が一緒に乗れるようにしたこと。もう1つは脚の接地面のカーブを変えて、ゆらゆらと大きく揺れる楽しさを加えたことです。

 澄川さんから届いたコンピューターグラフィックスを基に、早速、廣松さんは第1弾の試作に取り掛かりました。まずは安価で加工しやすいシナ合板を使い、ざっくりと座面と脚を組んでみます。こうして、3月初旬には第1弾の試作品が出来上がりました。3月14日、澄川さんが再び飛鳥工房を訪問。試作品のサイズ感や全体の佇まいを確認し、澄川さん自身も試作品に乗って揺れてみます。澄川さんは「うん、いいんじゃない」と揺れ具合にも満足したようです。座面だけの形にすることで、横座りができるようになったのも特徴です。「縦に揺れる椅子はあるけど、横に揺れる椅子はこれまでにないよね」と新規性も見出せました。ただし「揺れが大きすぎて、後ろに倒れる時に少しヒヤッとする」という意見も出たため、脚の接地面のカーブを改良することにしました。さらに使用する樹種や仕上げの方法、木材の厚み、持ち手の有無、脚と支柱の接合部の処理、座面のクッションや生地などについて話し合い、廣松さんは第2弾の試作に臨むことになりました。座面の張り込みについては、同じ諸富家具産地の平田椅子に依頼。この日、打ち合わせを終えた後、廣松さんとともに澄川さんは平田椅子を訪れ、生地を数種類選んで帰京しました。

 

 

安心感のあるカーブに修正

 

 その後すぐに、澄川さんから修正図面が届きました。脚の接地面のカーブが修正され、全体にぷっくりとしたフォルムへと変更されました。また最初のデザイン案にあった持ち手は省くことにし、座面の端を手でしっかりと掴めるようなコの字形へと修正されました。廣松さんは、第2弾の試作では、完成品と同じビーチの無垢材で挑みました。脚と支柱の接合部については、表からボルトが見えないように工夫を施します。このように様々な箇所を微調整しつつ、4月半ばには第2弾の試作品が出来上がりました。4月25日、澄川さんは飛鳥工房を訪れて試作品を確認し、これでほぼ完成と判断しました。さて、発表は2018年9月頃。ふるさと納税の返礼品にもラインアップする予定ですので、どうぞお楽しみに。

(杉江あこ/意と匠研究所)

 

第1弾の試作品に自ら乗って、乗り心地を確かめる澄川さん第1弾の試作品に自ら乗って、乗り心地を確かめる澄川さん