「ピースクラフツSAGA」は認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが実施する佐賀の伝統工芸を支援するプロジェクトです。
活動レポート
2017年7月11日

作品として、素材として 和紙の可能性を広げる[肥前名尾和紙]

「手の和紙」の製法について、展示ブースで来場者に解説する谷口祐次郎さん。日本から持参した作務衣に身を包んで、和紙の世界を熱心にアピールした

(写真:Julie Rousse)

 

和紙のインスタレーションで「海」と「時」を表現

 名尾手漉和紙の伝統を引き継ぐ肥前名尾和紙は、ピースクラフツSAGAの事業に参加し、国際工芸フェア「レベラション2017」に作品を出品しました。出品作品は、「手の和紙」「紙愛染(かみあいぜん)」「まゆ玉ランプ」の3点です。ブース内の天井から吊るされたまゆ玉ランプは、まるで月明かりのようです。白と藍色のグラデーションが冴える紙愛染は、天井からスリット状にディスプレイされました。これらは、会場内の送風を受けて揺らぎ、ガラスドームから差し込む日光を受けて輝きます。こうした演出は、ピースクラフツSAGAが今回のテーマとした「海」と「時間」を作品だけでなく、ブース全体で印象付けることに成功しました。フランス人コーディネーターとデザイナーのチームによるこうした演出により、来場者の目を多く引きつけたのです。

 

 

素材の「梶」に向き合った新たな挑戦

 肥前名尾和紙は、和紙の原料として全国でも珍しい梶の木を用いています。丁寧に手で漉かれた上質の和紙は、独特の風合いと輝くように白い発色を特徴とします。こうした手漉きの和紙だからこそ、藍染めした和紙の原料を漉き込んだ紙愛染には白と藍色の鮮やかなグラデーションが表れ、和紙の表面に凹凸を施した手の和紙には豊かな陰影をもたらすのです。しばしば工芸ショップなどで見かける粗悪な和紙や意図的に手作り感を出したものではなく、アートに近いファインペーパーとしての和紙が、レベラションでも高く評価されました。

 

 

クリエーターからの共感多数

 仏パリを拠点に活動する照明デザイナーの石井リーサ明理さんは、レベラションの会期中にピースクラフツSAGAのブースを訪れました。「まず、和紙の素材や品質の良さが魅力です。そこには、この和紙ならではの世界観が感じられます。また、照明デザイナーとしてこれらを見れば、建築やプロダクトの素材としてのポテンシャルの高さも分かります」と彼女は評してくれました。

 また、特に手の和紙に対しては、「この凹凸のある和紙に自分自身がペイントを施し、作品として仕上げてみたいです」と評価するアーティストもいれば、「この和紙そのものが作品として完成しています。自分の手を加えない方がいいでしょう」と評価するアーティストもいました。見方は様々ですが、クリエーターから多くの共感を得たことは間違いありません。

 

仏パリを拠点に世界的な照明デザイナーとして活躍する石井リーサ明理さん

仏パリを拠点に世界的な照明デザイナーとして活躍する石井リーサ明理さんもピースクラフツSAGAのブースに足を運んだ。肥前名尾和紙の「紙藍染」の展示を見上げ、照明機器の素材としての可能性の高さを評価した (写真:Julie Rousse)

 

 

職人と作家を両輪に

 素材としても、作品としても評価される和紙は、一方で作り手の谷口祐次郎さんを悩ませてきました。「和紙は素材なのか作品なのか、自分自身が職人なのか作家なのか、分からなくなることもあります。しかし、これらを両輪に新しい挑戦を続けたいと思っています」。作務衣を着て、ブース内で熱心に和紙を来場者に語る谷口さんの姿は、未来に向かって進む決意の表れに違いありません。

(下川一哉/デザインプロデューサー、エディター、意と匠研究所代表)

 

 

「手の和紙」

手の和紙。和紙を漉く過程で、手のひらを使って凹凸を出すことで独特のテクスチャーを生む

 

紙愛染

紙愛染のディテール。和紙の原料を藍で染め、和紙に漉き込むことで自然なグラデーションを表現した

 

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