「ピースクラフツSAGA」は認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが実施する佐賀の伝統工芸を支援するプロジェクトです。
活動レポート
2024年12月27日

2024年度 伝統工芸助成事業 完了レポート

伝統工芸助成事業 成果視察

2024年度伝統工芸助成事業は、公益財団法人佐賀未来創造基金と共同で実施され、5月から12月まで7つの事業を対象に行われました。 この事業は、佐賀県の伝統工芸を振興し、新たな分野への挑戦を促進することを目的とし、助成を受けた事業者がさらなる成長を遂げることが期待されています。

視察概要

最終視察は11月28日と12月12日の2日間にわたり、武雄市から有田町、伊万里、唐津までの地域を巡りました。審査員が同行し、助成事業の進捗状況や具体的な取り組みについて、事業者から現場で説明を受けました。


唐津焼/三藤窯

オランダの展示について期待を寄せています。

取り組み:海外での展示会に向けた「型打ち」技法による新デザインの器作りと生産体制の構築

唐津焼陶芸家の三藤氏は、日常に寄り添いながらも“非日常”を演出する作品づくりに力を注いでいます。川上清美氏に師事して作陶を始め、自身の修行経験から弟子制度の課題に直面し、経済的に安定した環境整備や後継者育成に取り組み、若手職人2名の雇用を実現するなど具体的な成果を上げています。
これまでの活動と唐津焼の未来を切り開く姿勢が高く評価され、助成金最高額の50万円が支給されることとなりました。

最終視察

型打ち技法を用いた石膏型4点が完成し、2025年11月に予定されているオランダ展示会に向けて試作品の制作が進行中です。「普段のろくろでは実現できない大きな作品や細かな彫刻に挑戦している」と意欲を見せています。一方で、乾燥や焼成時の変形など課題も見つかり、さらなる改良が進められています。
展示会では、茶道や華道といった日本文化と唐津焼を融合させた展示を予定しており、この取り組みは審査員から文化交流の観点でも高く評価されました。

〈審査員コメント〉

・唐津焼を海外で活用し、日本文化そのものを伝えようとする姿勢が素晴らしい。
・デジタル技術の活用も期待されるが、適切な技術者との連携が必要だと感じた。




武雄焼/玉峰窯(ぎょくほうがま)

SNSで人気の黒猫も参加してくれました。

取り組み:次世代への事業継承に向けた試験用窯の整備

中尾哲彰氏が長年研究を重ねた「銀河釉」。釉薬に含まれる金属の結晶が輝き、苦しい暗闇を照らす一条の光となるようにという作者の願いが込められています。しかし現在、哲彰氏はリハビリ中で、息子さんと娘婿さんが技法の解明に取り組んでいます。助成により試験用窯を整備し、データーを計測しながら試作と実験を重ねています。

最終視察

哲彰氏のデーターをもとに焼成温度・時間、釉薬の厚みを変えるなど試行錯誤を行っています。「銀河釉の基本色5色のうち、黄色の睦月銀河は安定して出せるようになってきた」と手ごたえを感じてる。上手く焼成できたものは、秋の有田陶磁器まつりで、すぐに売れてしまったということで、結晶の再現が待たれます。

〈審査員コメント〉

・難しい挑戦を楽しみながら結果に繋げようとする姿が素晴らしい。
・技術継承の意欲と努力が見える取り組み。


有田焼/貝山製陶所

貝山窯風景
仕上げ方や細かな成形方法など、独自技術を視察しました。

取り組み:上絵用電気窯の導入

有田焼は分業制を基盤とし、型・生地・上絵などの専門事業者による協力体制の下で高品質な生産体制を築いてきました。しかし近年、高齢化や後継者不足、設備の老朽化が進み、専門事業者の廃業が相次いでいます。これにより、窯元での生産が継続できなくなるという課題が浮上しています。
貝山製陶所では、上絵作業の内製化を進め、生産の安定化と迅速な商品提供体制を構築する取り組みを始めています。5年後の経営安定を目標に、人材雇用の検討も進めています。

最終視察

最盛期には月8回行っていた本焼成は、現在月1回程度に減少しています。これに対応し、高単価商品の製造へシフトすることで収益を安定させる試みを進めています。成形の内製化をほぼ完了した上で、今回は加飾部分の内製化を目的として申請しました。また、窯元のグループで独自販売の仕組みを模索するなど、現状を変革しようとする意欲が高く評価されました。

〈審査員コメント〉
  • 分業制が維持困難な中、自社で商品を完結させる方向性は時代に合っている。
  • 新製品を生み出し、商売繁盛を目指してほしい。

岡野嵩平(おかのしゅうへい)/器作家

岡野嵩平氏説明風景
窯の温度管理や操作の難しさなど、細かく意見交換しました。

取り組み:灯油窯の購入

岡野嵩平氏は武雄を拠点に活動する磁器作家で、シンプルで洗練された形状と素材の「白」を追求した作品づくりを行っています。産業的にはガス窯や電気窯が主流となる中、薪窯のような風情を表現するために灯油窯を導入し、味わい深い作品を目指しています。そのデザイン性や感性の高さ、展示会出展などの経歴が評価され、昨年度に続く助成採択に至りました。

最終視察

視察時点で合計16回の焼成を行い、灯油窯の使用経験を積んでいました。しかし、小型窯のため温度管理が非常に難しく、コツを掴むまでに時間がかかっているとのことでした。900度までは灯油で温度を上げ、その後6時間薪をくべ続けて焼成を行っています。また、薪の投入口が低いため、「前かがみの姿勢で作業するのが大変。他の窯元の工夫をもっと参考にすべきだった」と感想を述べていました。

〈審査員コメント〉

・前回の助成から着実に制作を進めている点が好印象。
・他の灯油窯を使用する窯元と意見交換してみてはどうか?


伊万里焼/冬山窯(とうざんがま)

冬山窯説明風景
伝統の裏打ちのある技術力の高さが、再注目されました。

取り組み:鍋島焼と虹彩磁を融合させた商品開発

冬山窯は香炉や置物の専門窯元で、伊万里焼の伝統技法である色鍋島を全て手描きで施した格調高い美術工芸品を制作しています。しかし、需要の低迷により販路拡大が課題となる中、新たな商品開発に取り組み、独自の技法「虹彩磁(こうさいじ)」を確立しました。この技法の確立と、従来の真摯なものづくりと相まって日本橋三越への出展などにつながりました。

最終視察

冬山窯では、排泥鋳込み成形、細工もの、透かし彫りなど、肥前窯業圏でも数少ない成形技術を保持しており、その意義が再注目されました。
さらに染付・上絵の加飾までをすべて行える市川氏の高い技術力と、新商品への開発意欲など、ものづくりに真摯に向き合う姿から、これからの作品へ期待が高まります。虹彩磁について「今まで鍋島焼を知らなかった若い世代にも関心を持ってもらえた」と手応えを感じています。

〈審査員コメント〉
  • 意義のあることに挑戦しており、伝統的な鍋島焼と現代性を融合させようとする姿勢が素晴らしい。
  • 見た瞬間に「すごい」と感じる光る表現が魅力的である。

NEXTRAD/有田陶交会の有志13社

NEXTRAD風景
活発な意見交換ができ、貴重な機会となりました。

取り組み:産地の魅力発信

有田陶交会の若手経営者13名によるNEXTRADは、伝統工芸品とは異なる量産品の魅力や有田焼の文化的価値を発信する活動をしています。東京での展示会や秋の有田陶磁器まつりでの窯業工場公開などを通じ、産地認知向上を目指しています。2024年9月に東京(青山)で若手商社と連携し展示会を開催しました。また、「秋の有田陶磁器まつり」では展示並びに、窯業工場の公開など、様々な企画運営を行っています。

最終視察

アドバイザーの浜野氏も参加され、1時間超に渡り現在の産地の状況を伺いました。肥前陶磁器商工協同組合の解散など、変化する産地構造について意見を交換しました。今後の産地支援策を模索していく意義ある場となりました。

〈審査員コメント〉
  • 産地全体の課題に取り組む公益性の高い活動を応援したい。
  • 官民の連携が必要であり、続けて支援していきたい。

武雄焼/宝寿窯(ほうじゅがま)

宝寿窯風景
武雄焼振興も積極的に行い、産地基盤整備を行っています。

取り組み:各地で開催される展示会への展示販売と宣伝

伝統工芸業界では、原材料費の高騰が続き、利益が圧迫されています。さらに、物価高騰により一般消費者の買い控えが増え、販売方法の見直しが急務となっています。宝寿窯では、SNSを活用した中国からの買い付けを成功させるなど、販路拡大に向けた試みを積極的に行っています。東京などでの展示会への出展を計画し、助成金を申請されました。
また、展示会では「武雄焼」のブランド化を目指した地域振興のための広報活動をされている点も評価されました。

最終視察

これまで数々のアイデアで多彩な作品を生み出してきた山本氏。しかし、宝寿窯には後継者がいないという課題があります。これまで築いてきた販路や顧客、施設を次世代に継承する方法を模索しており、創造力豊かな人材の確保が必要だと感じています。この課題を克服し、武雄焼の可能性を広げる挑戦が期待されています。

〈審査員コメント〉
  • 非常にユニークな作品で、芸術品のようで見ていて楽しい。
  • 後継者問題を克服し、さらに幅広い挑戦を続けてほしい。

2日間にわたる事業者訪問を通じ、伝統工芸の現状と今後の課題を感じました。
従来から課題とされてきた売上低迷に加え、材料や道具の確保、専門的な技術を持つ人材の不足といった問題はさらに、深刻化しています。

しかし、今回助成事業で訪問した事業者は、独自の工夫や取り組みを通じて、これらの課題に立ち向かっていました。生産方法の変革による雇用関係の見直し、独自技術の内製化など、次世代に伝統を受け継ぐための試みが随所に見られました。

これらの挑戦が、伝統工芸の価値をさらに広め、未来を切り拓く礎になることを心から願っています。