公益財団法人佐賀未来創造基金と共同で実施する2024年度伝統工芸助成事業は、佐賀県の伝統工芸を振興し、新たな分野への挑戦を促進することを目的としています。今回は、7つの事業者を対象に、5月から12月までの期間にわたり実施されます。
5月末から3日間、助成事業前の状況を視察するため、有田町を中心に武雄市と唐津市を巡りました。視察には佐賀県庁や団体の審査員が同行し、事業者からの説明を受けました。ここでは、各事業者の取り組みや現状を報告します。
三藤るいさんが主宰する三藤窯は、デザインに優れた唐津焼の窯元です。
2025年に初の海外展示会を控え、「型打ち」技法による新デザインの器作りと生産体制の整備を進めています。
型打ち技法はタタラ(薄く伸ばした粘土)を型に押し当てて成形する方法で、ろくろ技法より比較的容易に習得が可能なため、弟子たちが早い段階で作品づくりに参加できます。弟子育成と生産体制の強化が評価され、助成対象となりました。
型打ち技法は、タタラ(薄く伸ばした粘土)を型に押し当てて成形する方法で、弟子たちが早い段階で作品づくりに参加できます。
11月に試作品と試用型の完成、12月から製作開始
※展示会は2025年オランダ、2026年イタリア
これまでは当主の経験に頼って作品をつくっていましたが、息子さんと娘婿さんが継承するため、試作実験を繰り返しています。
息子さんが携わるようになってからSNSの運用を強化し、その活用によって全国から新規のお客様や弟子入り希望者が集まるようになりました。また、岡山の蔦屋書店での展示販売や、NHKから継続して取材を受けるなど、事業の幅も着実に拡大しています。
SNSは今や、玉峰窯にとって新しいビジネスチャンスを生み出す重要なツールとなっています。
試験用窯のメンテナンスを実施(実施日は調整中)
有田焼は、型・生地・上絵など分業制で量産体制を整え、成長してきました。しかし近年、分業体制の崩壊や高齢化による事業の継続性の課題に直面しています。
貝山製陶所では高齢化の著しい上絵を内製化することで、生産の安定性と迅速な商品提供体制を整えようとしています。
現在は外注先から専門的な技術習得を進めており、さらに閑散期を利用して技術向上に努めます。
完全な上絵の自社製作を進め、5年後には経営を安定化させ、人材の雇用も検討しています。
設置事業者と調整中。6月に中古窯のメンテナンス、7月に工場内に赤絵窯設置予定。
岡野さんは、武雄で磁器作家として活躍されています。通常、磁器製作の際は、ガス窯や電気窯の使用が一般的ですが、味わいのある作品づくりを目指し、灯油窯を導入します。
導入予定の窯は、小型で飯碗が60個ほど一度に焼ける容量となっています。操作方法が難しく、一定の習得時間を必要とします。電気窯と違う、ムラが出ることで味わいを面白いと感じる作品づくりを目指しています。
設置業者(福岡:福澤工業)の工房内下見が終了済。6月に窯を設置予定。
香炉・置物の専門窯元である冬山窯は、生活環境の変化に対応し、新たな商品開発を進めています。
若い人や現在のニーズを把握するために、今年は多くの展示会・個展に出展します。
息子さんが透かし彫りも含めた成形を行い、香炉生産は100%内製化で行っています。香炉製造を行うのは大川内山でも2件しかないと言い、美術品製造の高い技術力を転用し、商品開発を行う予定です。新たに独自に開発したキラキラした虹彩磁(こうさいじ)という技法の器を製作しており、伊万里焼の伝統技法色鍋島と融合させた商品もつくっていきます。
6月6日(木)~ 全国暮らしの器フェアin福岡
NEXTRADは伊万里・有田の窯元若手経営者・後継者など13名で結成したチームです。
機械ろくろや型での製造方法など、伝統工芸品とは違う量産の魅力や、文化としての有田焼を発信していきます。
過去3回有田でイベントを行ってきましたが、更に幅広い認知拡大のために、今年は9月に東京の青山でも開催します。11月23日・24日には例年同様有田にて開催予定。若手商社とも連携し、有田焼を来場者と共に考える、画期的な展示会です。
東京展:9月19日(木)~ 青山ライトBOXスタジオ
有田展:11月23日(土)~ 佐賀県陶磁器工業協同組合
伝統工芸業界では、コロナ以前から続く原材料の高騰により、利益が目減りする厳しい状況が続いています。さらに、物価高騰によって一般消費者の買い控えも起こり、販売方法の見直しを迫られています。
インバウンド需要が活況を呈する中、宝寿窯では、直接お客様の声を聞きPRを強化すべく、助成に応募。
SNSを通じて中国からの買い付けなど販路の拡大を模索し、既存のお客様へのPRと新規顧客の獲得を両立するため、定期的に展示会へも出展しています。また、武雄焼のブランド化を目指し、広報活動にも力を入れています。
6月6日(木)~ 全国くらしの器フェア2024in福岡
7月11日(木)~ 全国やきものフェアin宮城
9月19日(木)~ 西日本陶磁器フェスタ
12月5日(木)~ 暮らしを彩る器フェアinコンベックス岡山
原材料高騰や生活環境の変化により、伝統工芸品の市場規模は縮小していますが、事業者は真摯に取り組み続けています。視察を通じて、それぞれの熱い想いや考えに触れることができました。展示会やSNSを活用する事業者が多く、リンクを通じてその活動をより身近に感じていただければ幸いです。
次回は秋に経過視察を行う予定です。
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