2023年度伝統工芸助成事業は、公益財団法人佐賀未来創造基金と共同で実施され、5月から12月までの7つの事業を対象に行っています。
この事業は、佐賀県の伝統工芸を振興し、新たな分野への挑戦を促進するもので、助成を受けた事業者がさらなる成長を遂げることが期待されます。
視察は10月31日と11月8日の2日間にわたり、有田町から武雄市、唐津市から嬉野市までの地域を巡りました。各日程には、佐賀県庁や団体から3名と2名の専門の審査員が同行し、助成事業の進捗や具体的な取り組みについて、事業者に現場の状況を説明してもらいました。
「弓野人形」は、佐賀県武雄市の弓野地区で作られている土人形で、型おこしから絵付けまで手づくりで製作されています。素朴で愛らしい表情に定評があり、菓子「グリコ」のおまけなど、時代に合わせて様々な商品を提供しながら、伝統を守り続けてきました。2003年に弓野人形は佐賀県指定伝統的地場産品に指定されました。
江口人形店は1882年創業で、現在は5代目が経営を引き継いでいます。この事業では、人形製作に用いる素焼きの土型を、石膏に移行して保存するために助成金が活用されました。
初代から使用されている土型は、粘土の水分が型に移り、壊れやすい状態でした。また、押し型製法による生産制限により、一日に2〜3個しか製造できませんでした。石膏型への移行し、排泥鋳込みによる新たな生産方法を導入したことで、量産と品質向上が可能になりました。
助成金で新たに作られた型により、「無印良品」の正月に販売される「福缶」の注文に対応できました。その収益を他の石膏型移行への投資に回し、弓野人形の土型保護を進めていくということです。
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今年度から陶芸作家として独立し、武雄市に工房を構えた岡野嵩平さん。
全国のクラフト市などに出店されていて、東京のお茶を取り扱う店舗などに商品を納めるなど現在、活動の幅を広げています。
以前使用していた小型電気窯から、4倍ほど大きな窯へのアップグレードするために助成金を申請しました。新しく設置された大型電気窯により、これまで以上に大型の作品を制作でき、また量産も可能になりました。
現在は手作りろくろを使用して成形していますが、将来的には機械ろくろを導入し、素地の量産化も視野に入れています。
個人作家を応援する補助金が少ない中で「助かっている」と感想をもらいました。佐賀県で活躍し、工芸を志す個人の応援になる補助金の使い方を示してくれました。
川上清美さんは唐津焼の陶芸家で、唐津の土がもたらす魅力を引き出した力強い作風で知られています。絵唐津、朝鮮唐津、黒唐津、粉引唐津、斑唐津、黄唐津、織部唐津、蛇蝎唐津など、多岐にわたる技法を駆使し、多様な作品を生み出しています。
工房は築50年以上で、出入り口の引戸と窓は木製で老朽化が目立ち、近年の大型台風で展示室と併設の工房が被害を受けました。予防としてパネルを打ち付けるなどの処置は行っていましたが、度重なる災害により状態は深刻化。改装では、展示室の雰囲気を損なわないデザインを取り入れ、採光も広く確保して室内が明るく快適になりました。
川上清美さんは今でも土を自ら堀りに行き、ガス窯を使わずに制作しています。整備された環境で、今後も唐津焼の創造に挑戦する姿勢を、審査員に熱く語ってくれました。
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西川登竹細工は明治初期に農家の副業として始まり、淡竹を鎌や小刀で細かく割ってつくった竹ひごを編み込み、製品に仕上げるまでを職人が手作業で行います。その素朴で懐かしい風合いの竹細工は、近年では装飾品としても好評です。
栗山商店は竹工芸品の製作販売だけでなく、周辺の竹林整備や廃材処理対策、後継者育成にも力を入れています。助成金を活用し、作業場に展示什器を設置して商品陳列が可能な環境整備を行いました。これは、海外や県外から工房を訪れる方が多く、商品を購入しやすくなるようにと導入されました。また、丸鋸とベルトサンダーの導入により、廃棄していた竹の硬い部分を有効活用した商品開発にも取り組んでいます。
新商品はSDGs商品として嬉野市の旅館に納品され、今回の助成金が有効に活用されました。西川登竹細工は伝統的な竹細工の技術を守りながら、持続可能な商品開発など製作の幅を広げています。
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肥前吉田焼は佐賀県嬉野市にある日常の食器を製作する磁器産地で、その中でも副久製陶所は14ある窯元の1つとして知られています。創業は1953年で、2015年には伝統技法の濃み(だみ)を取り入れた斬新なデザインのブランド「副久GOSU」を立ち上げました。
窯業産地では、素地をつくる会社(素地屋)が高齢化などの理由で急速に減少しており、将来的には素地の確保が難しくなると言われています。
これまで素地屋に外注していた素地づくりを内製化することで、生産の安定と効率化が期待されます。助成金を活用して、従来の作業場に隣接していた倉庫のスペースを改装し、新たに生地製作場を拡大整備しました。これまでの陶器の素地製作に加えて、磁器素地の製造も可能になるように、部屋に仕切りを設けました。
素地問題を解決するための先例として、肥前吉田焼の伝統を継承し、産地において先駆的な存在となることを期待しています。
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文翔窯は、有田焼と異素材の取り扱いに定評があり、創業以来コンセントカバーやガラスペン、ホチキスなどの文房具、そして独自のインテリア製品を製造しています。その中で、助成金を活用して以下の二つの取り組みを進めました。
まず、窯の特徴を生かすデザインに変更する新しい案内看板の設置が行われました。これは、30年前に設置された案内看板が老朽化し、文字が読めなくなっていたことから、窯を訪れる方々にわかりやすくアピールするための改修です。
次に、海外販路の拡大の一環として、「Londoon Design Festival2023」に出展しました。出展を通じて、色使いやデザインなど現地の人の好みに合わせた商品開発の必要性を実感しました。これを受けて、海外進出における具体的な目標や課題が明確になり、今後の新商品開発に向けて積極的な挑戦を行っていく方針です。
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