ブース内で、インテリアオブジェ「干満」を転がして解説する廣松利彦さん
(写真:Julie Rousse)
諸富家具の飛鳥工房は、レベラション2017の会期中、ピースクラフツSAGAのブースで、インテリアオブジェ作品「干満」を展示しました。作り手の廣松利彦さんはブース内で作品の側に立ち、干満を床の上で転がすなど、実演を交えて作品のコンセプトや素材・仕上げに関する詳細を来場者に解説。また、佐賀錦振興協議会と共作したトレイ「波紋」に関して、来場者の関心は、端正な仕上げのサクラ材製本体と側面に張った佐賀錦との質感のコントラストに集まりました。温かく艶やかな触感の木材と、サラサラした織物の感触の対比は、来場者に好評でした。レベラションを訪れる来場者の関心が作品の素材に向くなか、飛鳥工房は様々な木材を自在かつ丁寧に扱う姿勢を示すとともに、ファインクラフトの素材としての木材の可能性を明示したと言えます。
サクラ材で仕上げたトレイ本体と、側面に張った佐賀錦とのテクスチャーの違いを触って確かめる来場者。来場者の目は、常に素材に向いている
佐賀錦と組み合わせることで、端正な仕上げが際立ったトレイ「波紋」シリーズ
干満も、ピースクラフツSAGAが今回のテーマとした「海」と「時間」を表現する作品です。干満が示す潮の満ち引きは、海を舞台にした時間の対比です。その対比をスギ材とヒノキ材の円盤で表現しました。スギ材の円盤は流木のように荒々しく、ヒノキ材の円盤は白砂のように艶やかに仕上げられました。また、この干満は、インテリアとして室内に置けるだけでなく、床の上などを転がして楽しめます。90度にねじれながらも左右対称のオブジェが転がり、戻ってくる様は、浜辺に打ち寄せては返す波を思わせます。干満は、転がすことで完成するオブジェなのです。
スギとヒノキ、2種類の針葉樹を組み合わせて作ったインテリアオブジェ「干満」(直径約40㎝の円盤を2つ組み合わせた)。本来似たテーストの針葉樹も、加工や仕上げによって表情を変えられる
干満に対して、来場者は次のように評価しました。「オブジェが持つ美しいラインの中に、2つの素材が同居しています。異なるテクスチャーのコントラストが新鮮に映ります」「最初は、室内に置くだけのオブジェと思いましたが、転がることで魅力が増しました」「独楽のように回転するオブジェはこれまでにも見ましたが、水平方向に転がるオブジェは初めてです。空間に時間の流れを表現できます」。独楽のような回転は時間を止め、干満のような転がりは時間の経過を可視化し、顕在化させる−。そんな発見もありました。
今回、ピースクラフツSAGAの支援事業を通じてレベラションに初めて出展した飛鳥工房の廣松さんは、「事業者が単独でこうした海外の見本市に出展することは容易ではありません。今後もこうした機会をつかみ、ほかの工芸事業者との共作や共創に挑んでいきたいと思います」と言います。ファインクラフトとしての木工の可能性を、これからも開いていくことでしょう。
(下川一哉/デザインプロデューサー、エディター、意と匠研究所代表)
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