ピースクラフツSAGAのブース内で、来場者に作品を解説する副島太郎・副島硝子工業社長
(写真:Julie Rousse)
肥前びーどろの副島硝子工業は、レベラション2017のピースクラフツSAGAブースで、ジュエリーボックス「玉手箱」の四季シリーズを展示しました。今回のブース全体のテーマである「海」と「時間」の概念を、さらにテーマを表現する際の下敷きとした昔話「浦島太郎」のイメージを、物語のクライマックスに登場する玉手箱に封じ込めました。
作り手である副島太郎・副島硝子工業社長もレベラション会期中に自らブースに立ち、来場者に素材や技法、表現したかった物語などについて丁寧に解説したほか、工芸作家としての思いを訥々と伝えました。「我々のガラス工芸の価値を、欧州の富裕層やクリエーターに理解してもらえ、手応えを感じました」と、副島社長は振り返ります。
「玉手箱」の四季シリーズは高さ約10㎝、幅約18cm、奥行き14㎝の箱で、同社が独自に開発した重ね吹きガラスの技法を進化させた蓋と、黒檀製の本体を組み合わせたもの。春をイメージした「玉手箱 春の海 緑藻」は芽吹いたばかりの海の藻を思わせる緑色を基調色とした作品です。「玉手箱 夏の海 群青」は力強い海流を思わせる色彩、「玉手箱 秋の海 茜凪」は夕暮れ時の静かな海を思わせる赤、「玉手箱 冬の海 白金」は氷雪を思わせるプラチナ箔を基調にした作品に仕上げました。いずれも抽象的な表現で、幻想的と言えます。これら4作品はブースの奥に横一列に並べて展示され、ブース外から目を留めて作品の近くまで足を運ぶ来場者も少なくありませんでした。
玉手箱 冬の海 白金
玉手箱に見て触れた来場者の反応は、我々の予想を上回るものでした。「異素材の組み合わせに魅力を感じます。日本らしい『包む』文化を工芸とした進化させているんですね」「作り手の押し付けを感じない作品です。しかしよく見ると、確かな職人の技が感じられます」「何層ものレイヤーの中に物語と風景を感じます。日本には何度も行ったことがありますが、こんな表現は見たことがありません」「何を入れておくか迷ってしまいます。もちろん、ジュエリーでもいいですが、もっと精神的に大事なもの、例えば家族からの手紙などを大事にしまっておきたいと思います」といった評価が来場者から聞かれました。出荷価格は、1つ4300ユーロ以上と高額ですが、多くの引き合いを得ることができたことは大きな収穫です。
会期中、多くの来場者と対話を繰り返した副島社長には、別の収穫もありました。「今回の出品で、改善すべき点や進化すべき点も理解できました。これからのものづくりに生かしていきます」(副島社長)。肥前びーどろは、ファインクラフトとして一層の進化を目指しています。副島硝子工業が新たに生み出す作品が、今から楽しみです。
(下川一哉/デザインプロデューサー、エディター、意と匠研究所代表)
作品の細部まで鑑賞する来場者。確かな技と作品に秘められた物語が評価された
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