「ピースクラフツSAGA」は認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが実施する佐賀の伝統工芸を支援するプロジェクトです。
活動レポート
2017年4月21日

色ガラスで四季の風景を立体的に描く[副島硝子工業]

「玉手箱」の誕生

 色ガラスに封じ込められた金属箔やガラスの破片。それらがまるで万華鏡のように幻想的な模様となって表れる……。

 伝統的な肥前びーどろの製造技術を受け継ぐ副島硝子工業の代表取締役、副島太郎さんが1年近くかけて開発した新商品がついに日の目を見る時がやってきました。2017年5月に開催されるパリの国際工芸フェア「レベラション」に、ジュエリーボックスとして出品されることになったのです。その名も「玉手箱」。展示ブースは『浦島太郎』の物語をモチーフに、「海」と「時」をテーマに演出されます。

 新商品の開発にあたり、ピースウィンズ・ジャパンは、副島さんが以前から取り組んできたこの技術に着目。フランスから招聘したデザイナーらも同様に着目し、物語性を一層明確にするため、春夏秋冬をイメージした4作品を製作することを提案しました。その結果、春は芽吹いたばかりの海の藻を思わせる緑色、夏は力強い海流を思わせる群青色、秋は夕暮れ時の凪いだ海を思わせる茜色、冬は氷雪を思わせるプラチナ箔を基調にした作品ができあがりました。実は、「自分の思い描いたイメージ通りに作ることが、とても難しかった」と副島さんは振り返ります。

 

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副島硝子工業の代表取締役、副島太郎さん

 

ガラス膜を3層重ねる

 「玉手箱」の模様はどのようにして生まれるのでしょうか。それはガラス層を3層とし、その間に金、銀、チタン、プラチナ箔やガラスの破片を重ね合わせています。その重ね順によっても、模様の出方は変化すると言います。「キラキラと輝く金属箔だけでなく、ガラス独特の奥行きある色を見てほしい。3層重ねているので、色に立体感があるんです」と副島さん。

 製作工程では、まずガラス原料を竿に巻き取り、宙吹きした後、型に入れて成型し、空洞の直方体を作ります。その後、直方体を真っ二つに割るのですが、吹き方が均一でなければひび割れてしまうため、非常に高い技術を要します。当初、副島さんは器と蓋の両方をガラス製で考案していましたが、合わせ面を削って調整するうちに、連続する器と蓋の模様がずれてしまうことが避けられなかったため、器を木製にすることをデザイナーが提案。これなら蓋を閉める際、ガラス同士がぶつかり合う時に不快な音を生じなくて済み、日常使いにも向くようになりました。

 

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職人に指示を与えながら新商品開発に挑む副島さん

 

パリに縁を感じて

 副島硝子工業のルーツは、幕末に佐賀藩士の佐野常民が中心となって設立した精錬方(理化学研究工場)にあります。佐野常民は、日本が初めて参加した1867年のパリ万国博覧会へ佐賀藩派遣団の一員として随行した記録があります。そうした歴史を振り返り、「パリに不思議な縁を感じた」と副島さんは言います。

 ジュエリーボックスとして出品する「玉手箱」ですが、「使い方や用途は、手に取った人それぞれが自由に想像してほしい」と副島さん。パリで多くの人々に「玉手箱」を評価してもらい、その実績を基に、今後、国内外で自社の製品や作品の販路拡大を図りたいと意気込みます。

 

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フランスから招聘したデザイナーらが副島硝子工業を視察した

 

(杉江あこ/意と匠研究所)

ピースクラフツSAGAは、まもなくパリで開催される国際工芸フェア「レベラション2017」に出展します。世界のファインクラフトが一堂に集うレベラ ションは、佐賀の伝統工芸が新しい一歩を踏み出すのに相応しい場であると確信します。特集記事ではレベラションに向けて最先端工芸に取り組むつくり手たち をご紹介します。第1回は副島硝子工業です。